スポーツクラブについて(10)

実際、その話術ときたら、誰もが<思わず嫉妬したくなる程の才能>と手放しで賞賛せずにはいられないものと思われた。

澄子
でも、驚くのは、ちょっと待って!! ここからが、この話の、一番盛り上がるところなんだから!

そのちょっとしたエピソードを早苗はすでに何度も聞かされていたし、盛り上がる部分など全く存在しないことも承知してはいたのだが、それでも、なお、今度こそは何か違った結末を迎えるのかもしれないと期待を抱かせるに十分な語り口だった。早苗は、またも、澄子の話に熱くのめりこむ一方で、今しがたの思考について冷静な検討を重ねていた。
−「ここは、女らしく、直観で言わせてもらうなら(女の直観という奴ね)、<思わず嫉妬したくなる程の才能>ほど、嫌な褒め方にもなかなかお目にかかれないわ。どんな時でも自己を統制する能力があるって誇示したいだけみたい。本当に、すばらしい才能を目の当たりにしたら、嫉妬するか、そうでないかのどちらかであって、嫉妬したくなる、なんて曖昧な状態になるわけが無いし、その上に、"思わず"がつくのだから、結局のところ、"思わず""嫉妬したくなって""検討の結果、嫉妬しなかった"り、"嫉妬したくなろうと思ってから""嫉妬したくなって""嫉妬したり”するわけだから、いったいどこまで複雑にすれば気がすむのかしら!! だいたいこんなもの、嘘にきまってるわ!!」