スポーツクラブについて(6)

階段を昇りきった地点から直線距離で三メートル程の場所に、小介の部屋へと続くドアがある。十字路の一方が階段で、三方は通路である。その十字路は、一方が階段であることを除いてごく普通の十字路そのものとして機能していたが、全体に整った十字を描いているとはお世辞にも言い難く、歪みの一番大きな対角線が階段と小介の部屋とを繋いでいたので、階段を昇り終えてからなお三メートルの移動が必要とされるのであった。その三メートルに人が居るというのは、全く予想していなかったし、実際そこに人は居なかったのだが、これが、階段を昇り終えたのではなく、逆に部屋から出てくる場合だと、そこに人の居る場合が、まま、あるのだった。一時期は、部屋から出ると必ず人が居ると思えるほどの頻度で遭遇が発生し、小介はそのたびに血の凍るような戦慄を覚えていた。ただ人が居るのではなく、決まって、その人影は小介の部屋から遠ざかるように移動しており、また、強い臭気が残っていたのだ。その不審者がいわゆるホタル族であるのはすぐにわかったが、部屋の中での移動を察知して行動されるのはいい気分がしなかった。対策として、足音を潜めてドアまで移動、一気呵成にドアを開けてみたのだが、そうすると逆に男と鉢合わせをしてしまい、それはそれで嫌なので、どうにも打つ手がないという塩梅ではあった。「その事とは特に関係ないのだが、なぜ俺はこうも小心になってしまったのだろうか。そのせいで、小介などという名前をつけられてしまったのかもしれない。まぁ、俺が命名されたのは俺が小心者になるずっと前、それこそ、この世に生を受けるか、受けないか、といったタイミングでの事なのだから、そんな因果関係はあり得ないわけだが……。そうすると逆に、なぜそんな命名をしたのかというのは気になるところではある……」 小介はそうつぶやくと、ドアノブに手をかけた。