真紅の女海賊 めーぐる(3)

K2Da2006-08-24

「ようそろー」
「ようそろー」
今回は趣味のカジキ漁を楽しむ、うめださんのクルーザーへお邪魔させていただきます。うめださん、今日は一日よろしくお願いします!
「こちらこそ、短い時間ですが、よろしく」
健康的に日焼けした浅黒い肌から白い歯が覗く。どんな女性にも俺と車道の間を歩くことだけは断じて許さん、なぜなら危険だから。決して口には出さないが、常にそんな張り詰めたきくばりを周囲に振りまく。うめださんは、そんな素敵な男性です。ところで、きょうのお目当て、カジキっていったいどんな生き物ですか?
「カジキはとても大きな魚ですよ。最低でも一トンはある。想像できるかな? うちではみそ汁や、カレーに入れて食べるんだ。これが実にうまい!」
魚なんですね。
「カジキ釣りはとてもスリリングです。つまり一トンもあるわけだから、実際どのようにつり上げているのか自分でもわからないくらい。時には命のやり取りにまで発展しますよ。そうなれば手段は選べない。多面的、かつ徹底的に、人類の歴史が生み出したありとあらゆる残虐な手段を動員してやり遂げる。そういう意気込みです。でもそれも、自分の命がかかっているからです。だってそうでしょう? 幸い今までそうなった経験はありませんが、もしカジキと崖の上でやり合うことになったら、一緒に崖を転げ落ちて決着を付けるはずです。最後に上になった方が勝ちってわけ。もちろん、勝ったとしても無傷では済まないだろう」
ふむふむ、なるほど。命をかけて、自然と調和することで穏やかな気持ちになる。それが笑顔と健康の秘訣かもしれません。
ちょうどこのタイミングで、水辺線の向こうに一本のマストが見えてきましたね。あ、あの真紅の海賊旗は……。
めーぐるだ!」
「面舵いっぱーい!」
「ようそろー」
水平線に低く昏く立ち込める雲がなにかを暗示しているようであった。こいつは長い一日になりそうだ。
(続く)
バトンなので欲しい方に差し上げます。