エレベーターについて

高いビルを造る際に高層へ行く人の利便に配慮して添える箱。その箱は人間にはどう頑張っても無理なスピードで疲れ知らずに上下へ動くので、高いところへ行きたいときに便利でした。なにもかも忘れて強い風に吹かれたいときとか。心地よい風への期待を胸一杯に抱いて箱に一歩足を踏み入れるとわずかに全体が沈み、四人の先客が私を見つめました。それがそのまま落ちてしまうのではないか、という心配をしているような目ではありませんでした。むしろ、朝礼に遅れてしまうので早くドアを閉めてもらえないだろうか、と言いたいかの様な目でした。操作盤を見ると行き先を示す明かりは20の数字だけを照らしており、私は17階へ行きたかったので、17と書かれたボタンを力強く押しました。次にエレベーターが止まるとそこは17階だったので、何事もなかったようにエレベーターを降りました。つづいて、先客の一人もエレベーターを降りました。私が17階のボタンを押すことがなければ彼は17階で降りてしまうことはなかっただろう、と考えると少し居心地の悪い感じがしました。
要するに私は今日エレベーターに乗ったのでそのことについて書きたかった。何故かというと最近本当にあったことを日記に書くのがマイブームだからですが、本当には毎日なにも起こってないのでこれは本当に大変です。今日起こった一番ドラマティックな出来事は、私が乗った時点では17階のボタンが押されていなかったのに何故か私に続いて17階で降りる人に出会ったこと、ですが、その驚きが上手く表現できたか心配です。上手く行っていないように思えたので途中から、いやにぼかしたことを書きつつ良く読むとエロティックな小話になっている、というような日記にしてしまおう、と思ったし、実際そのように試みました。上昇するエレベーターが絶頂の隠喩になっているとかそういう類の。これはみんなが好んで読む娯楽です。しかし、シモの話が苦手な私にとってそれを自作するのは難易度が高かった。オモシロ日記を書くためには是非越えなければならない壁なので観張りたい。壁を越えることが出来たら、毎日日記の最後に愚息も欲情、とか書きたい。これはどこが面白いかということを説明します。よく愚息愚息というのは、愚息が元気になったりしょんぼりしたりするのが面白い、それが愚息の形態であると同時に<私>の心情を表している、という、いわば、上手いこと言ったった、みたいな感じになっているからですが、愚息が欲情、といってしまうとそれはもう形態を表してもいないし、愚息に心情とかないし(心情があるのではないか? という感じがすることはありますが)、愚息愚息といわれているので口に出してみたがうっかり直接的に言い過ぎてしまってなにもわかっていない、空気読めてない、みたいな間抜けな感じがあってそこが面白いと思う。