規約重視とモラル重視について(1)

どちらも集団内個人の自由を制限して、全体としての幸福を増やそうとする力だとして。合理的な人である私としては、他人についてモラルと規約を最大限有効に活用してその自由を削り取り、自分の行動については出来るだけ規約やモラルの制限を回避して、したいようにしなければならない。
ここで言ってる、規約とモラルの違いは単純で、規約は規約が作られた時点で価値判断を取り込み済みであり、適用する際には価値判断を行わない。モラルは、成立した時点ではそのまま行為と結びつけることが出来ないような曖昧な基準にしかなっておらず、適用する時点でなんらかの価値判断が必要になる。
単に集団内の幸福を最大にしようとするなら、モラルに全てを任せるのがよい。個々のケースは規約には取り込めないような事情を持っているのだから、それぞれのケースについて個別に判断が行えるならそれが一番良い。間違って取得してしまった多重IDは消去されない、とか。この件だけを見るなら、多重IDを消す必要は誰にもないので消さなくて良い。ただ、個々人がそれぞれに「全体としての幸福」を優先して判断を行うとしても、まず個々の行為についてそんなコストのかかること(全体に与える影響の計算)は一々やっていられないし、全体とは誰か、こちらの不幸とあちらの幸福をどう計算するのか、について簡単に同意を取ることができないから、つねに判断の保留と価値主張の対立が起こる、ので、全てをモラルに任せるわけにはいかない。
ではどうすればよいのか、というと、類型的に把握できるケースについては、個々事例の価値判断を放棄して、ある一定のルールに従って行為の良い悪いを判断して良い、判断しなければならないことにする。それをどうやってまもらせるか、その力に根拠はあるのか、という問題もあるんだけど、今はウェブ上のサービスについて考えているから、サービスを利用する時の規約だと考えれば特にその力に根拠は必要ないので、そう考える、のでそれを規約と呼ぶ。システム的な制限についても、一度コーディングされてしまえば価値判断を間に挟まずに働くから、規約とおなじ種類の力だとして考える。
それぞれのケースについて価値判断を行わなくても良い、というのは凄い利点。規約が適用できるケースなのかどうかについて、だけなら、価値の問題ほどには食い違いが起きない。ただ、いつも個別の事例に適合して働くわけではないから、行為単体としてみればどうみても全体の幸福には役立っていないような行為も規約上は許される(もしくはその逆)、というケースも多い。多いが、そこをモラル的な価値判断で崩すわけにはいかない、規約は全員に守られてはじめて意味があるものなので、あからさまに全体の幸福に反する行為でも規約上は許されなければならない(もしくはその逆)。
実際にはこの二つが混合して利用される、というように解釈できるかな、と思う。ある程度までは個別性を無視して規約で制限する、規約上は許されるが、あきらかに全体の幸福を損なうような行為にはモラル的な圧力をかける、と言う風に。
で、今興味があるのはモラルのことですが、モラルのことなんですが(二回書きました)、記名でモラルについて話すと極端にモラルの力を強くする方に行くのではないか、と思うわけです。他人を制限する力だから、強い方が良いわけで。自分がされたくないことは全て出来ないようにする方が良いし、そう主張することで自分がそのような行為をすることを望んでいない、と言う姿勢も表現できる。小学校で生徒にルールを決めさせると極端に厳しくなる、のとおなじで。だから、それへ対抗するために、規約を重視する立場を利用するってのが規約重視ではないかなぁ、そういう用途で規約を重視するという姿勢をとるのは理解できるなぁ、と思う。直接的にモラルの力を弱めようとする発言をすると、自分がモラルに制限されるような行為をしたいと望んでいる、と取られるから。それ以外に、規約のみを重視する姿勢ってのの利点が分からない。規約はあくまで、行為個別への価値判断、モラル的な判断、はコストがかかりすぎるからその代替物としてあるだけじゃないのか。まぁ、判断そのものが不可能である、という立場だったら規約を重視するしかないんだろうけど、そうすると今度は"良い"規約を定めることも出来なくなるだろう、と。規約を作る時には価値の判断が行えるけど、個別の行為には"出来ない"ということが有り得るのか、みたいな。
話を戻すと、モラルに反するとか、モラルの力を弱めようとする方向の発言は匿名でやればいい、ということになりどんどんあれだなぁ、と思って実際特に言う必要がないので言わなくても良い、みたいな。実際にモラル圧力をかけられた場合に、規約にないから良いじゃん、ていう。しかしそれでは遅いのであって、なぜならモラルは動くから雨後空地に動かした方が良いのでは、と思うならそこから関わる必要がある……。無い。