関節鳴らしに凝っています。以前はドラマ等で、今まさに喧嘩が起きようとしてる、殴りかかるつもりである、という意気込みを示す記号的な演出として採用されていましたが、最近は流行っていないようで他人の関節鳴らしを目にする機会が減っているのが残念です。
19世紀の霊媒師はラップ音を出すために関節鳴らしを利用していましたが、私の関節は一度鳴らすと暫くの間は音を出すことが出来ないので、大変寡黙な霊しか降ろせないようです。関節を鳴らすことによって、体内に物理的な変化が生じるため、続けて鳴らすことは出来ないのだと考えられます。また、一定の休息を与える事によって再び鳴るようになる事から、それは一時的な変化であることがわかります。このメカニズムは非常に不思議なものに思えたので、何年か前にgoogle様にお伺いを立てたのですが、そのときは明確な回答が得られませんでした。今回もう一度調べたところ、あるある大辞典[]に信用できそうな回答が載っていました。あれは腱がずれる音なのだそうです。しかし、あるあるはあまり信用できないので、あるいはそうなのかもしれない、と思う程度に留めておきます。
私がある程度コンスタンスに鳴らせる関節は、全身で四十二個所にも及びます。全身と言ってもこれは全て指の関節です。内訳は、親指を除いた両手の指が各三箇所、親指が各二箇所で、両手で計二十八箇所、足の指は人差し指と中指が二箇所、他の指が一箇所で両足計十四箇所、総計四十二関節です。
一番最初に鳴らせるようになった関節は、手の指の第三関節(親指のみ第二関節)で、それは小学校高学年に上がった頃だったと思います。指鳴らしには多少の痛みが伴います、特にあまり慣れていない場合には。苦痛の代償に何か(この場合は音)を得る、という構造そのものに魅力を感じた私は一時期狂ったように指を鳴らし続けていました(子供は皆強迫観念を抱え過ぎだと思います。私は、寝る前には家中の全電灯についてオン/オフを確認しなければならない、という強迫観念も持っていました。なにか事件が起きたときに警察や探偵に尋問されるかもしれない、と思っていたからです)。私が友達と外で遊んだり、家で勉強したりせずに指ばかり鳴らしていることについて両親は何も言いませんでしたが、犬飼さんは「指を鳴らしすぎると関節が太くなる」と、私に警告しました。犬飼さんは近所に住んでいた専業主婦で、良く自分で焼いたパンを持って我が家に遊びに来ていたのです。しかしこの警告は逆効果で、どちらかというと指を太くしたかった私はその後も熱心に指を鳴らしつづけました。ただ、指を鳴らすと指が太くなる、というのは嘘だと思います。私の指はそれほど太くありません。指を太くしたい、というか拳頭を大きくしたいなら、巻藁を突くのが一番いいです。
次に鳴らせるようなったのは足の指全般です。最初は恐ろしかったですが、いまは足の甲を地面に押し付ける、などの随分ぞんざいな遣り方でも鳴らせます。ただ、足の指はこれ以降それほどの発展を見せませんでした。足の指は短すぎて特定の関節をある程度以上折り曲げる事が不可能だからです。
最後に、手指の第二、第一関節です。第二関節を鳴らすには技術的なブレイクスルー(難関突破)を待たねばなりませんでした。それまでの関節鳴らしは、初期の段階において主に指を引っ張る事によって実現されました。つまり、指を引っ張る事によって関節鳴らし慣らしを行い、人に披露する段になってから初めて関節を曲げる方法に移行していたのです。しかし、どれだけ力一杯指を引っ張っても鳴るのは第三関節、か、寂しさ、ばかり、第二、第一関節はそもそも音を出す機能を備えていない欠陥関節ではないのだろうか? 第二関節を逆の手で握るようにして鳴らすのはポピュラーな仕草ですからそんな事は無いはずです。結局、いまだに指を引っ張る事によっては鳴らないのですが、素直に折り曲げる事で鳴らせるようになりました。
続いて、極々最近鳴らせるようになったのが指の第一関節です。いままでは恐ろしくて敬遠していたのですが、爪先を指の付け根に押し当て、指を掌に巻き込むように逆の手で第二関節を押し込むと安定を保ちながら第一関節に大きな負荷が掛けられる事が判明しました。この方法で練習を繰り返し、今は普通に鳴らせるようになっています。第一関節を鳴らす場合の注意点としては、爪に負荷がかかるので、爪が大変痛くなります。
最後に、先程はカウントしませんでしたが、指の第一、第二関節は横方向にも鳴らすことが出来ます。これはかなり小さい音でしかも余程調子がいいときしか鳴りませんので説明を省きました。