変な三人組について

僕も初対面の人に動き方が変といわれた事があるのであまり他人の事をいえないんだけど、やっぱり踊り方が特徴的な人ってのは居て、そういう人は顔も覚えてしまうし、勝手に仇名をつけたりする。両手を広げてブースの前で左右に揺れるように踊る、ちっちゃいメガネのおじさん、年の頃は恐らく40歳前後、の人がいて、僕は「ちっちゃいおじさん」と呼んで心中密かに慕っていたんだけれども、もう一年くらい見かけてなくて心配だ。毎月一回は確実に見かけていたので。その辺の人に聞くと、やっぱ目立ってたみたいで姿形は皆知ってるし、下の名前も分かったんだけど、連絡つけられる人は誰も居なくていつも一人で来てたらしい。カッコいい。
しかし、先日見かけた奇妙な三人組はそんな可愛らしいものではなかった。描写の練習としてまず状況を説明しようと思う。そこは小学校の体育館程度の広さがある。人が沢山いるけど場が広いのでパーソナルスペースは半径2メートルほど確保できる。通常の体育館はその短い辺に沿ってステージが設置されているが、そこでは長い辺に沿ってステージが設置され、ブースの中では外人がレコードを取り替えたり突然叫んだり腕を振り上げたりして暴れている。照明はかなり暗く頻繁ににピカピカする。低音が風として感じられるほどの大きさで頭の悪そうな音楽が流れており、スピーカーの前にずっと居るとこめかみが痛くなる。土曜の朝4時で、前日は普通に勤務しているからかなり眠く、呑み過ぎで頭もぼーっとしている、こういう状況です。朝になって家に帰る、すぐ日記を書けばメンテナンスが始まる前に日記を書けるだろうけど、一度寝てしまったら恐らく日記を書くことは出来ないだろう、どうしよう、ということを考えながらふらふらしている僕の前にその三人組は突然現れ奇妙な行動を開始したのです。
彼等は男二人、女一人で構成されていて、男二人は親友のようでした。女は恐らくどちらかの男と特別に親密な関係であったのではないかと思われますが、それとわかる挙動は示さなかったし、そもそも僕は男二人の判別が付かなかったのでその点についてははっきりと言う事が出来ません。女は疲れているのか、ただ付き合いで来ただけで気が乗らないのか、僕と同じで眠いのか、ただぼけっと突っ立っていましたが男二人は異常にテンションが高く、現れるとすぐに向かい合って踊りだしました。この踊り方が非常に奇妙であり、僕はそれにマジックポイントを全て吸い取られたのです*1
その踊りは特別難しいものではなく、ただ両足を揃えて左右に跳ぶだけなのです、時々気が向くと片足の膝下だけ振り上げたりもしますが。しかし、それを曲のリズムと全く関係なく、男二人が満面の笑みで向かい合って披露しているという光景は気持ち悪いほど微笑ましく、僕はそれにすっかりやられてしまったので目を離す事が出来なくなりました。
もう四時だし、突然元気になった所で数分と持つまい、そう思っていたのですが、十数分を経てもその男達の意気はいよいよ盛んであり、ついに大技を繰り出します。パワームーヴと言うのでしょうか、互いに互いの手を取り、えいっ、という気合い一閃、両足を揃えて相方の股下に滑り込みます。股くぐりです。しかし勢いが足らないので腰の辺りまでくぐり抜けた所で停止、床に寝転がって上を男にまたがれているのになにが面白いのか馬鹿笑い、この芸が気にいったようで攻守を入れ替えながら何度も挑戦しますが、一向に成功しません(そもそもどうなったら成功なのかが分かりません。手を繋いでいる以上、ある所より先には進めないのです)。この頃には周囲もこの奇態に気づいていますが、大半の人は関わらない方が賢明だと判断したらしく、そこは一種の真空地帯となりました。しかし、僕と同じようにその男達のパフォーマンスに魅入られてしまった人もおり、特に若い女性二人組は立ち上がるのも困難なほど笑い転げていました。男達は周囲の状況など全く眼に入れずに孤高の挑戦を続けていましたが、結局どうも二人のコンビネーションに難があると判断したようで、連れの女性をくぐり役に仕立てようとしました。このときの女性の心から嫌だという決意に満ちた表情もまた素晴らしかった。しかし結局女性は何回かの挑戦を強要され、その全てに失敗しました。
いかに知り合いといえど公衆面前で股くぐりを強いるのはなにかの犯罪を構成するのではなかろうか、と僕は思いましたが、怖かったのでなにも言いませんでした。そしてその人たちは何処かへいってしまいました。

*1:ドラクエが流行っているので……。これが書きたかっただけです、この日記は。