SFトーク(spoilerですマジ注意)

あなたの人生の物語」はテッド・チャンの同名短編集に収録されている短編です。言語学者が主人公で、思考方法が著しく異なる異星人とのコンタクトを描いています。「イリーガル・エイリアン」の前半と似た舞台設定です。「イリーガル・エイリアン」では人間と異星人の差を生み出していたのは物質的な形状と、異星人の置かれた環境にありましたが、「あなたの人生の物語」の異星人(ヘプタポッド)は人間とは根本から認識のあり方が違うそうです。
人類の心は逐次的言語の鋳型によって形成されているのに対し、ヘプタポッドは同時的認識様式をもつというのがその違いで、要するに、人間は線形に連なる言語で思考しているが、ヘプタポッドの心には一瞬で絵が浮かび上がる、という違いです。短編の中ではここを起点に因果や時間の認識までも全く異なるヘプタポッドの思考(に慣れていく主人公)を描くんですが、そこはよく理解できなかったし勘違いしてると恥ずかしいので触れません。私が面白いなぁと思ったのは「絵で考える(思考の結果が映像として認識される?)」と言うところです。
私は物を考えている時に、画像や映像が思い浮かびそれによって言葉によってなされている思考の流れが変わる、とか、もっと極端に、絵で物を考えている、などという事は全くありません。視覚的なものを無意識に思い浮かべる、という事が皆無です。妄想に耽っているときも大体は知らない誰かの賞賛の声が何処からか聞こえてくる(映像なし)だけだったりするわけで、映像まで思い浮かぶのはピンク色のものくらいです。だから絵が下手なのかもしれない。
そういうわけで私は画像で物を考える、という事はないのですが、意識して思考を整理するために図を使う事はあります。プログラムの構造を図で表記する、という技術は凄い昔から研究されていて、今流行りの?UMLもそういう図の表記法を集めて標準化しよう、という流れの成果です。言葉で説明すると難しいけど、図で見ると一発で分かる、というのは別にヘプタポッドに限った話ではないわけです。プログラムに限った話でもなく、なんとか表記法、とかそういうのは良くあるようです。
プログラミング言語という奴は物凄く逐次的で、基本的には上から順番に実行していくだけです。オブジェクト指向言語においては、処理の流れを記述するのではなく、オブジェクトの性質を記述していく事によってプログラムを構築する、という形を取っていますが、コンパイルされ、実行されるときには逐次的に一ステップづつ進んでいくだけです。逐次的な処理の流れを覆い隠して、オブジェクトとオブジェクトがメッセージを送りあって処理が進んでいく、という風に見せかけるのがオブジェクト指向プログラミングだと思います。で、さっきのUMLですが、これに含まれている図のいくつかは、ほぼそのままプログラムソースの雛型として使える、というところが売りなのです。という事は、ひょっとして画像が全く頭に思い浮かばない、というのは絵が下手になるだけでなくプログラムの設計も下手だっていう事ですかね…。悲しくなってきました。
こんな具合で私は何か少しでも複雑な事について考える時にコンピュータの事を思い浮かべてしまいます。塵理論JAVA VMがガベコレで一瞬止まってるときみたいだなぁ、とか。これは私が少しでも真面目に勉強した事がある分野がその辺しかない、というのが原因だと思います。本当はもっとこういう事を考えるに適した語彙群があり、それを使いこなせば同じような事を考えている人と効率的に話し合う事ができるだけでなく、一人でものを考えているときももっと楽しめるかもしれないので、是非そういう専門的な語彙を増やしていくべきで、そのためには色々本を読まなければならんのでめんどくさいなぁ、という話です。
私がインターネット様は本当にすばらしいなぁ、と思うのはこのことです。つまり、インターネット様が現れる以前は余程恵まれた環境にいない限り、一般人には理解不能な語彙を使って一生懸命物を考えてた人は誰と話しても何でこんな回りくどい話し方をしなければなら無いんだ、とイライラしていたはずなんですが、インターネット上には凄い沢山人がいるので、今はそういう人も思う存分語彙を振り回して会話しているんではないかと思います。インターネット上に著名知識人が登場したとき、わらわらーっと人が集まってくるのは彼等のファン心理からだけではなく、この人だった私の最高に濃縮された語彙でもって効率的に話し掛けても通じるだろう、というような快感があるのではないかと思いました。あの人は私と同じインターフェースのクラスライブラリ(語彙)を持ってるに違いない、的な。まぁでも実装が違ってて細かい差異に悩まされたりするんです。私はデータベース的、という概念を聞いたときにクラスライブラリ的という言葉を思いつきました。どうでしょう。