ファンタふるふるシェイカーについて

私は十六階一番奥の奥で働いていて、ファンタふるふるシェイカーは十六階と十七階、両階の自動販売機に置いてあったので、一刻も早く飲みたいときは十六階、ちょっとした気分転換も兼ねて階段を登りたいときは十七階でファンタをかっていました。大体の場合、より長いあいだ持ち場を離れていたかったので、十七階で買っていました。よく、喫煙者は煙草を吸うためにビルの外まで出かけるので、休憩しすぎ!! 喫煙サボタージュや!! と主張するファシストに遭遇しますが、私は日に何度もファンタを買っていたし、そのたびに寄り道をしていたので、実質的には平均的な喫煙者よりよほどおおく席を離れていました。そのせいで、週番の士官に目をつけられているような気もして、席を離れるときは誰にも気づかれないようそっと立ち上がるか、あかん……、もうだめや……、と呟きながら、これ以上休憩を取らなければ能率が落ちる、悪くすると死んでしまうかも……、という感じを演出しながら部屋を出ていくことにしていました。その甲斐あって、私は長い間おそらくほぼ独力で十七階のファンタを買い支えることができていました。証拠に、私があまり購入しなかった十六階のファンタはかなり早い段階でラインナップから取り除かれました。後釜には飲むスイーツという缶コーヒーが入りました。販売箇所が十七階のみになってからは、より熱心に十七階のファンタをかうようになりました。ふるふるシェイカーは振らないと飲めないので、購入後に缶を振りながら席まで戻ります。これはかなり悪目立ちするので、私のファンタ好きは特に十七階で有名でした。十六階、十七階にはグレープしか置いてなかったので、グレープばかり飲んでいたのですが、バランス良く飲めよ、ということで、レモン味のファンタを十七階の人からもらったこともあります。あるいは、あまり席を立ちすぎるな、という警告だったのかもしれませんが……。なぜなら、レモン味もビルを出てすぐのところに売っていて、仕事帰りにはよく一杯飲んでいたからです。しかし、つい最近十七階のファンタもなくなってしまいました。最後の商品入れ替えの際、たまたま自動販売機会社の人とすれ違ったので、いままでありがとうございました……、と心の中で頭を下げたら、いえいえどういたしまして、といっていました。